事業者間の「契約書の意義」


事業者間取引において、取引を開始する段階では、通常は良好な関係にあり、契約書の必要性はあまり感じないものです。したがって、特に法務部門を擁しない中小企業では、継続的な取引でさえ、契約書なしで取引をしている事業者は少なからずあります。
それでも、取引が順調なうちはあまり問題にならないと考えられてきました。

しかしながら、以上のような「事業運営」における考え方自体が、時代環境の変化と共に問題となってきています。「契約書の意義」を時代環境を見据え、正しく認識しましょう。

1.「事実確認」のため、2.「証拠」として、3.「予防・リスク対策」として、4.「事業計画実現」のため
以上4つを「契約書の意義」として以下に解説します。
( これからの時代、4.「事業計画実現のための契約書」としての意義「協働の関係としての契約」(win-win関係構築の契約)に向けた戦略性が特に重要となります。 )

なお、「なぜ契約が必要なのか」の理論につきましては2016年ノーベル経済学賞を授与されたオリバー・ハート米国ハーバード大学教授による「不完全契約理論」が有益ですが、ここでは割愛します。なお、概要をお知りになりたい方は、以下の書物が平易に解説されておりお奨めです。

『契約と組織の経済学』(柳川範之:東洋経済新報社)~1章を通読後2章「不完備契約理論の基礎」p20以降ご参照。~

1.「事実確認」のための契約書:

お互いが考えていた契約内容(合意内容)にギャップ(お互いの勘違いなど)が生じたりすることは多々有ることです。このようなギャップが生じないように契約書に合意内容を記載しておくことに意味があります。

2.「証拠」としての契約書:

契約書を作成していたとしても、裁判になる場合があります。そのとき契約書は最も強力な証拠材料になります。契約書に署名・押印している場合は、契約書に書いてある事と異なる主張をすることは非常に困難となります。

3.「予防・リスク対策」としての契約書:       

また、お互いに誠実に「契約内容に即して」正しく取引をしていても、取引当事者以外の第三者に発生したトラブルにより、当事者同士の取引にもトラブルが発生してくることがあります。

例えば、仕入先の倒産により原材料が調達できない。逆に、取引先に納品した製品の一部製品に不具合があり、納入した製品を回収しなければならない・・・等々。

特に事業者同士の取引では、一回の取引で終わるのではなく、継続的に取引を行うことが多いので、長い取引の間には予期しない問題の発生の可能性があります。

上の「製品の欠陥」の例で考えてみましょう。納品した商品Aに欠陥があり、商品Aの納入業者X社がY社から損害賠償をされたとしましょう。契約書は取り交わしていないとしましょう。

当然、Y社としては商品Aの代金を返還してくれ、と請求してきます。ところが代金を返金すれば「問題解決」とは限りません。この商品Aの欠陥によって、Y社は「当社の販売先であるZ社へ損害を与え、Z社から損害賠償を請求されている。原因は商品Aの欠陥にあるのだから、Zへの賠償金も御社X社が代償すべきだ。」となれば、X社にとって、どれ程の予期せぬ出費になるか、予測もつきません。

このようなリスクに対して、契約書に「損害賠償の上限」を定めておけば、つまり商品Aに欠陥があってX社が責任を負う場合でも、「賠償額の上限は〇〇万円までとする。」と定めておけば、予想される出費の額も明確になるというものです。(すべてのケースでのリスク防止対策となるものではありませんが、一定の歯止めにはなります。)

新商品やソフトウェア商品などでは特にこのようなリスク回避対策としての契約書が必要となります。

上の「賠償額の上限」は一例であって、その他「作業内容」「役割分担」「納入検査の合格条件」「瑕疵担保に関する条項(瑕疵の定義)等々を「契約書として書面」に明確にしておくことは、「予防又はリスク(紛争拡大)対策としての契約書」として大きな意義があります。保険契約が必要なケースもあるでしょう。

4.「事業計画実現のツール」としての契約書: 

『計画的戦略』に基づく事業計画を実現する上で、特に重要な損益計画を実現するため「入金時期」「支払時期」を「契約書」でどう取決めるか。
すなわち、事業の「製品・サービス」を、どこと「販売契約」するか・
しないか、事業に必要な「資材・サービス」を、どこと「購入契約」するか・しないか、これらを検討し、どの相手と「どのような契約をするか」相手先要望条件との折衝を経て「入金時期」「支払時期」を契約すること。キャッシュを確保し続けることが事業の根幹」であり、これが最も重要な契約書の意義です
「販売契約」と「購入契約」以外においても、「事業計画を実現するための契約」は必要です。知的財産権に関する「ライセンス契約」、「製造委託契約」、「販売代理店契約」、また金融機関との「金銭消費契約」も事業計画実現の手段として必要です。
すなわち、事業運営上、交わされるすべての契約書には、「事業計画を実現する戦略的手段としての意義」があります。

【解説】: 

「事業計画」経営理念(ミッション<使命・存在意義>・バリュー・ビジョン)、経営戦略(どのような製品・サービスをどの市場に投入するか)に基づいて作成されます。そして「事業計画」には事業戦略」(環境分析・ターゲット設定・マーケティング戦略他)及び「数値目標」(販売、仕入、投資等計画の目標値)を必要とします。上を「計画的戦略」と言います。

【重要ポイント】しかしながら、時は既に『創発的戦略』の時代です
顧客ニーズを適確に把握し、あるいは発掘・創出し、ニーズを実現(顧客に満足を提供)するため他事業者と如何に戦略的に連携・協働(「契約」)するか!という新たな価値創出の時代となっています。

このような「契約(書)の意義」を理解した上で、具体的実践として、以下を実践することとなります。

(「カウンターオファー」としての契約書の作成を進めましょう。)

1.「事業計画実現のツール」としての契約書を作成する。(→『創発的戦略』の展開~『業務委託契約』のPDCA実践

2.次の判例理論(「契約プロセスにおける信義則」)も「事業計画を実現する契約」を如何に取り進めるかを検討する上で、現実に存在する事実(課題)として認識し、契約締結交渉を優位に取り進めることが求められます。

 

ARK@契約 行政書士アーク総合 原田 豊
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